はじめに
犯罪被害に遭遇した際、被害者が取るべき行動の一つに「告訴」があります。
告訴は、犯罪事実を捜査機関に申告して犯人処罰を求める手続きを意味し、通常は告訴状を作成して警察署などに提出する形で行います。
このコラムシリーズでは、告訴や告訴状について、被害者の視点から詳しく解説していきます。第2回目となる今回は、告訴を行うことができる者について、ご説明します。
告訴ができるのは誰か?
警察などの捜査機関に対して被害の申告と犯人処罰の意思表示を行うことを告訴といいますが、誰が告訴を行えるかについては、刑事訴訟法230条で「犯罪により害を被った者は、告訴をすることができる。」と定められています。
つまり、犯罪が発生した場合、誰でも告訴ができるわけではなく、暴行罪で暴行を加えられた方や侮辱罪で侮辱された方、窃盗罪で物を盗まれた方など、まずは犯罪の直接的な被害者であれば、犯罪の種類や被害の大小などは関係なく、告訴ができることになります。
告訴権者とは?
告訴する権利を告訴権といい、告訴権のある人のことを告訴権者と呼びます。
犯罪の直接的な被害者はもちろん告訴権者ですが、被害者以外であっても告訴権者として告訴ができる場合があります。
- 被害者の法定代理人
- 被害者が亡くなった場合の配偶者・直系親族・兄弟姉妹
- 被害者の親族(被害者の法定代理人が犯人等である場合)
- 死者の名誉を毀損した場合は、名誉毀損された死者の親族や子孫
- 検察官の指定する者(親告罪で告訴できる方がいない場合など)
会社や法人も被害者として告訴が可能
犯罪の被害を受けるのは人間だけではなく、会社などの法人や団体であっても被害を受けることがあり、法人なども被害者となる場合があります。
もっとも、法人などが被害者となる事件では、代表者が法人の告訴権を行使しなければならず、代表取締役を置いている株式会社の場合は代表取締役が会社を代表して告訴手続きを行うことになります。
告訴できる者として認められた判例
原則的には、被害者として告訴ができるのは、直接的な犯罪の被害者となります。
なお、告訴をできるかどうかが微妙なケースであっても、判例で告訴権を認めらたケースがあります。
信書開封罪(大判昭和11年3月24日)
信書到達後に開封された場合
信書到達までは発信者
信書到達後は発信者と受信者の両者
器物損壊罪(仙台高判昭和39年3月19日)
賃貸で借りている建物の窓ガラスが割られた場合
建物を借りている賃借人
横領罪(最判昭和35年12月22日)
親族間の横領罪が発生した場合
被害物件の共有者
建造物損壊罪(最判昭和45年12月22日)
ブロック塀を損壊された場合
共有者の1人である夫が留守のために管理維持していた配偶者
被害者が未成年の場合
たとえ未成年の被害者であっても、告訴の意味を理解した上で、告訴で生じる利益や不利益などを判断できる年齢に達していれば、未成年者自身が固有の権限として告訴を行うことが可能となります。
被害者が成年被後見人の場合
成年被後見人は、告訴の意味や告訴で生じる利益・不利益などを判断することが難しく、成年被後見人自身のみでは有効な告訴と認められない危険があります。
そのため、成年被後見人が被害者の場合は、法定代理人である成年後見人が告訴を行うことになります。
被害者の家族は告訴ができるか?
被害者が未成年者の場合、親権を持つ父母や養親が、被害者本人の意思とは無関係に独立して告訴をすることができます。
被害者の代理人は告訴ができるか?
告訴は代理人によって行うことができます。
代理人として告訴を行う場合、被害者などが代理人に対して告訴する権限を委任することになります。
代理人になれる者
代理人になれるかどうかは、弁護士など特別な資格は必要なく、誰でもなることができます。
なお、報酬を得て告訴状を作成や警察への提出を業として行うことができるのは弁護士や行政書士、検察庁への提出を行うことができるのは弁護士や司法書士になります。
まとめ
告訴を行うことができる犯罪被害者の中には、成人のみではなく未成年者でも可能な場合があります。また、会社などの法人であっても代表者が告訴状の作成や提出手続きを行うことで告訴ができるケースもあります。
特に被害者が未成年者の場合、法定代理人となる父母などは、被害者本人の意思とは関係なく独立して告訴をすることも可能です。
他方、告訴の代理人に関しては誰でもなることができますが、スムーズに告訴状作成や警察提出を進めるためには、弁護士や行政書士などの専門家に相談しておくことも有効なひとつの方法といえます。