1.はじめに
近年、インターネットやSNSの発展により、誰でも簡単に情報発信できる時代となりました。
しかし、その一方で、匿名性の高いネット環境を利用した誹謗中傷や名誉毀損被害も増加しています。
2023年に行われた総務省の調査によると、SNS利用者の65%がインターネット上で誹謗中傷に関する投稿の目撃経験があり、18.3%の人が実際に被害にあったと回答しています。
総務省 インターネット上の違法・有害情報に関する流通実態 アンケート調査
また、被害内容は、「悪口や罵詈雑言を書かれた」、「根拠のない事実を書かれた」、「虚偽の情報を拡散された」など、深刻なものも多く見られます。
名誉毀損被害は、個人の尊厳や社会的地位を大きく傷つける可能性があります。場合によっては、うつ病や自殺などの深刻な問題に発展することもあります。
本記事では、名誉毀損罪の要件をわかりやすく解説し、被害を受けた場合の対処法を紹介していきます。
2.名誉毀損罪とは?
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者を罰する犯罪です。
2-1.法定刑
3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金
2-2.名誉毀損罪と侮辱罪の違い
名誉毀損罪:具体的な事実を示している
侮辱罪:抽象的な表現を使っている
2-3.民事上の責任
名誉毀損罪で刑事罰が科されるだけでなく、民事上の損害賠償責任も負う可能性があります。
2-4.名誉毀損罪が成立するポイント
ここでは架空の事例を用いてポイントを説明します。
まず、名誉毀損罪は刑法第230条1項で「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」と規定されていますが、長いので分解して考えてみます。
架空の事例 SNS上で「〇〇(フルネーム)は詐欺でお金を騙し取ったことがあるので注意」という書き込みがされたケース。 |
「公然と」→不特定または多数人に伝わる行為か? SNSを含むインターネット上の書き込みは世界中の人が見れるので、不特定多数人に伝わる行為といえる。 |
「事実を摘示し」→具体的な事実を示しているか? 「詐欺でお金を騙し取った」と書かれているので、具体的な事実を示している。 |
「人の」→特定の個人や法人を対象にしているか? 「〇〇(フルネーム)」と書かれているので、特定の個人を対象にしている。 |
「名誉を毀損した」→社会的な評価が低下するおそれはあるか? 犯罪者のように書かれているので、当然、社会的な評価が低下するおそれはある。 |
結果:名誉毀損罪の可能性が高い
2-5.刑法第230条の2に該当すれば処罰されない
テレビ・新聞・週刊誌の記事など、特定個人の名誉を毀損しても、それが公共の利害に関する場合は、刑法第230条の2の規定で処罰されないケースもあります。
3.インターネット・SNSと名誉毀損罪
インターネットやSNSの発展により、誰でも簡単に情報を発信できるようになりました。一方で、名誉毀損罪による被害も増加しています。
3-1インターネット・SNSにおける名誉毀損罪の特徴
公然性
インターネットやSNSは不特定多数人の人が閲覧できるため、名誉毀損罪の「公然と」の要件を満たしやすい。
拡散速度
書き込みやコメントが瞬時に拡散するため、被害が大きくなりやすい。
匿名性
匿名で投稿できることが多く、加害者の特定が難しい。
3-2.インターネット・SNSの名誉毀損罪で多いケース
・事実無根の情報による書き込み
・根拠のない悪口や罵倒
・人格を否定するような表現
・虚偽の情報の拡散
3-3.インターネット・SNSと名誉毀損罪
インターネット・SNSは、情報発信の民主化をもたらしコミュニケーションを円滑化しました。しかし、その一方で、名誉毀損罪の件数も増加しています。
3-4.名誉毀損被害の拡大
インターネット・SNSでは、事実無根の情報や根拠のない悪口が拡散されやすく、被害が深刻化しています。
精神的苦痛
被害者は、社会的評価の低下や人間関係の悪化など、深刻な精神的苦痛につながることがあります。
社会的信用失墜
企業や団体の場合、社会的信用を失墜し、経済的な損失を被ることもあります。
3-5.匿名性のリスク
匿名性によって、加害者の特定が難しくなり、責任の所在が曖昧になります。
悪意のある書き込み
匿名性を悪用して、悪意のある書き込みやコメントが投稿される可能性があります。
責任の所在
匿名性によって、加害者の特定が困難になり、責任の所在が曖昧になります。
4.名誉毀損被害の対処法
インターネットやSNS上で名誉毀損の被害を受けた場合、冷静かつ迅速な対応が重要です。
4-1.証拠の収集
まずは、名誉毀損被害を受けた証拠を収集しましょう。
・書き込みやコメント
・投稿日時
・加害者情報(ハンドルネーム、IDなど)
・書き込みやコメント、投稿日時、加害者情報などを表示させた画面のURL
これらの情報は、後の発信者情報開示請求や法的措置で必要となりますので、各情報をパソコン画面等で表示させ、スクリーンショットを撮ってプリンターで印刷するなどして、証拠を確保します。
4-2.専門家への相談
弁護士や行政書士、法テラスなどの専門機関に相談しましょう。
・刑事告訴
・民事上の損害賠償請求
・発信者情報開示請求
4-3.発信者情報開示請求
被害を受けた場合は、プロバイダやSNS運営者に対し、発信者情報の開示請求を行うことができます。
発信者情報開示請求には、以下の手続きが必要となります。
・裁判所で発信者情報開示命令の申立て
・手数料の支払い
発信者情報が開示されれば、発信者と思われる人物の氏名や住所といった情報を入手することができます。
5.刑事告訴
刑事告訴は、警察などの捜査機関に対し、犯罪被害を申告して犯人の処罰を求める手続きです。
刑事告訴には以下の手続きが必要です。
・告訴状の作成
・警察への提出
告訴状を警察に提出すると、最終的に警察は事件を検察に送ることになります。
事件を受けた検察は犯人の起訴・不起訴を決定し、起訴処分となった場合は刑事裁判となります。
6.ひながた告訴状について
告訴状の作成は、お手本となる記載例を集めることからスタートします。
しかし、告訴事実や告訴に至る経緯など、適切な文言を選択して書面作成する必要があり、告訴状の受理に消極的な警察担当者も少なくないので、告訴状の作成や提出は簡単ではありません。
この点、「ひながた告訴状」では、記載例はもちろんですが、実践的な文章の作り方や警察提出の方法についても分かりやすく解説しているので、安心して手続きを進めることができます。
告訴状の作成や警察提出をお考えの方は、ぜひ「ひながた告訴状」をご活用ください。
7.まとめ
インターネットやSNSの発展により、誰でも簡単に情報を発信できる一方で、名誉毀損被害も増加しています。
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者を罰する犯罪です。成立するかどうかは「公然と」「事実を摘示し」「人の」「名誉を毀損した」に該当するかを検討します。
インターネット・SNSは、公然性や拡散速度の速さに特徴があり、匿名性によって加害者の特定が困難になるというリスクもあります。
名誉毀損被害を受けた場合の対処法を理解し、適切な対応を取ることが重要です。